フリーランスの報酬未払い対策と回収法を解説【事例あり】
フリーランスとして働く上で、報酬に関するトラブルは避けたいものです。
例えば、「報酬の不払い・過少払い」を経験したフリーランスが全体の24.9%を占めるというデータがあります。また、「報酬の未払いや一方的な減額があった」と答えた人も26.3%に上り、フリーランスの約4人に1人が報酬に関するトラブルを経験していることが明らかです。(※)
この記事では、未払いトラブルの事例や未払い報酬を回収する方法、事前に行える予防法について解説していきます。
フリーランスの未払い事例
未払いの原因はクライアントや業務内容によって大きく異なりますが、フリーランスであれば直面しうる2つの事例を紹介します。
- クライアントが倒産したため、報酬が支払われていない
- 契約書なしでの業務を開始した
クライアントが倒産したため、報酬が支払われていない
フリーランスとして活動していると、クライアントの倒産による未払いが生じる場合があります。日本では年間8,690社(2023年)が倒産しており、自身が経験する可能性が全くないとはいえません。(※)
また、倒産したクライアントが破産手続きや民事再生手続きに入った場合でも、未払い報酬の一部しか受け取れないことがあります。
特に多くの取引先を持てず、売上を分散することが難しいフリーランスエンジニアは取引先が倒産する場合の対応策を想定しておくことは重要です。
契約書なしでの業務を開始した
フリーランスが案件を受注する方法は多様化していますが、案件を依頼された際に契約書を交わさないケースは少なくありません。
日本労働組合総連合会によるフリーランスの契約実態に関する調査では、「メールやチャット、アプリで確認・合意を行っている」ケースが72.3%、「口約束で確認・合意を行っている」ケースが56.0%であることがわかっています。(※)
しかし、フリーランスが取引先と契約書を交わさずに、口約束やメール・チャットのみで業務を受注することは、報酬未払いトラブルに遭うリスクを高める要因となります。
報酬未払い以外にも、契約書を締結しないことによって以下のリスク・トラブルが生じる可能性があります。
- フリーランスとしtねお業務内容が曖昧になり、予想外の追加作業を求められる可能性がある。
- 突然契約を打ち切られるといったトラブルが発生することがある。
- SNSやチャットはメッセージの削除や改ざんが容易で、証拠を残しにくい。
フリーランスとしてトラブルを防ぐためには、業務範囲や期間、報酬条件を明記した契約書を事前に作成し、双方が合意することが不可欠です。
フリーランス新法
フリーランス新法(正式名称:「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律」)は、フリーランスが安心して働ける環境を実現するために制定された法律です。この法律は令和5年5月12日に公布され、令和6年1月に施行されました。
主な内容には、取引条件の明示義務や報酬支払いの期日設定義務、ハラスメント防止措置義務などが含まれます。
特に報酬のやり取りに関する内容は以下の通りです。
- 納品日から60日以内に報酬を支払うことが義務付けられています。違反した場合、公正取引委員会等による指導や勧告が行われるほか、場合によっては企業名が公表されることもあります。
- 業務提供(1か月以上のもの)に関しては、フリーランスの責めに帰すべき事由がない限り、業務の受領拒否や一方的な報酬の減額、返品を行ってはならないとされています。
フリーランスが未払い報酬を回収する方法【自分でできる対処法】
未払い報酬が発生した場合、まずは自分でできる対処法から始めることが重要です。
- 自分にミスがないかを確認する
- 未払い報酬の支払いを催促する
- 内容証明をクライアントに送付する
上記の方法がどのように未払い解消に役立つのか、それぞれのポイントを順に解説していきます。
自分にミスはないかを確認する
未払い報酬の回収に動く前に、まず自分(フリーランス側)に原因やミスがないかを確認することが重要です。
- 請求書を発行したか:請求書を発行していない場合、クライアントが支払い手続きを開始できず、未払いとなる可能性があります。
- 内容に不備がないか:請求書の金額や支払い方法、振込先口座に誤りがないかも確認しましょう。例えば振り込み口座を誤って記載しており、別の口座にすでに振り込まれているケースも考えられます。
- 支払日が正しく記載されているか:請求書を発行している場合は、請求書に記載されている支払日を1度確認するようにしましょう。もしかしたら、支払日の記入を間違えている可能性があります。
さらに、納品物が契約条件を満たしておらず、検収が完了していない場合も支払いが滞る原因になり得ます。自分に見落としや間違いがないと判断できた場合には、クライアントに未払いの理由を問い合わせ、適切に対処しましょう。
支払い催促を行う
未払い報酬の原因がクライアント側にあると確認できた場合、早急に先方へ連絡を取り、状況把握に努めましょう。まず、担当者に直接連絡を取り、未払いの理由や今後の支払い予定について話し合います。
報酬について確認する際にはクライアントの言い分をしっかり聞き、冷静に対応することがポイントです。一般的な未払いの原因としては、経理部門との連携ミスや支払い処理の漏れ、資金繰りの問題などが考えられます。
また、契約内容や納品物に問題がないことがわかれば、いつまでに振り込み対応が可能であるかを確認しましょう。連絡がつかない場合に備え、複数の連絡先を把握しておくことも大切です。
内容証明をクライアントに送付する
クライアントがフリーランスへの支払いに応じない場合は、次の手段として「内容証明郵便」を活用します。
内容証明郵便は郵便局が文書の内容を証明する証拠となるため、「見ていない」「捨てた」などの言い訳を封じられるのです。
さらに、督促状を内容証明で送付することで、法的手段を視野に入れていることを示し、支払いを促す効果が期待できます。
ただし、「内容証明」そのものには法的な拘束力はありません。そのため、悪質な対応が続く場合には、弁護士に相談することも選択肢の1つです。
未払い報酬を法的手段で解決
未払い報酬が自力で解決できない場合、法的手段を取ることで未払い報酬を回収できる可能性があります。
- 支払督促を申し立てる
- 民事調停を活用する
- 少額訴訟を起こす
それぞれの法的手段の特徴や、手続きでの注意点について解説していきます。
支払催促
支払督促とは、簡易な手続きで未払い報酬を回収するための法的手段です。申立人(フリーランス)が簡易裁判所に申し立てることで、裁判所書記官が支払督促を作成し、相手方に通知します。通知後、一定期間内に相手方から異議申し立てがなければ督促状に記載された内容が確定し、強制執行が可能となります。
支払督促は、出廷や証拠提出が不要で書類審査のみで進行するため、通常の訴訟よりも時間や労力が少なく、費用も抑えられるのが特徴です。
また、送達手段として付郵便送達が利用でき、相手が不在の場合でも督促が有効とみなされます。ただし、相手方が異議を申し立てた場合は訴訟へ移行するため、長期化のリスクがあります。
未払い報酬の消滅時効(5年)に近い場合でも支払督促を申し立てることで時効を更新できる点も支払督促を行うことの利点です。
民事調停
民事調停は、裁判所の調停委員会が仲介し、当事者間で話し合いによる解決を目指す手続きです。調停で合意が成立した場合、その内容は「調停調書」に記載され、判決と同様の法的効力を持ちます。
調停成立後に相手が合意内容を履行しない場合は、強制執行を行うことも可能です。手続きは簡易で費用が抑えられる上、非公開で進行するため、双方が自由に意見を述べやすい点が特徴です。
ただし、債務者には調停への参加義務がないため、話し合いを拒否された場合や合意に至らなかった場合は、調停が不成立となり、別の法的手段を検討する必要があります。
少額訴訟
少額訴訟は、60万円以下の金銭トラブルを迅速に解決するための手続きで、原則1回の審理で判決が下される簡易的な裁判です。
弁護士を立てずに自分で手続き可能であり、弁護士費用が抑えられる点が少額訴訟の特徴です。裁判所が認めれば弁護士以外の代理人を立てることが可能です。
ただし、事前に証拠書類の準備が必要で、十分な審理を行うために裁判所に何度か足を運ぶ必要がある場合もあります。また、相手が裁判に出席しない場合、その場で勝訴が確定しますが、判決に強制力はないため、支払いがなければ強制執行を行う必要があります。
さらに、被告が通常訴訟への移行を申し出ると、手続きが長引き、弁護士費用などの負担が増える点には注意が必要です。
未払い報酬を未然に防ぐ方法
フリーランスが未払いトラブルを回避するには、事前のリスク管理が欠かせません。ここでは未払いトラブルを回避するのに有効な対策を紹介します。
- 信頼できる企業かを確認する
- 業務を開始する前に契約書を交わす
- 業務上のやり取りを保存する
- エージェントサービスを利用する
信頼できる企業かどうかを確認する
未払い報酬を防ぐためには、クライアントが信頼できる企業かどうかを事前に確認することが重要です。まず、企業名を検索し、WEBサイトやSNSで評判や過去のトラブル情報を調べましょう。
口コミサイトやエージェントサービスを活用して、他のフリーランスがその企業と取引した際の評価や経験を参考にすることも役に立ちます。
業務を開始する前に契約書を交わす
未払い報酬や業務内容のトラブルを防ぐためには、業務開始前に契約書を交わすことをおすすめします。
契約書を作成しないまま業務を始めると、報酬未払いだけでなく、「契約時と異なる条件で作業を進行させられたり」(43.0%)、「納品後に値引き交渉を持ちかけられる」(20.3%)といったトラブルが発生する可能性があります。(※)
※ フリーランス新法に関する理解度や期待度を調査/FREENANCE
さらに、契約書は裁判や法的手段を取る際の重要な証拠にもなり、双方が契約を守ろうとする意識を高める効果があります。フリーランス側で契約書の雛形を準備しておくことで、スムーズにクライアントとの契約締結を行え、安心して業務を開始できるでしょう。
以下の記事では契約書のテンプレートをダウンロードできる外部サイトをまとめています。
働き方の多様化が進む現代において、フリーランスとして仕事をすることを選ぶ人も増加しています。令和4年の総務省調べによると200万人以上がフリーランスを本業としているという数値が出ています(※)。
実際にフリーランスや個人事業主として働き始める際、依頼主側と「業務委託契約書」を結んで仕事をすることになるケースがあります。
本記事では、業務委託契約書に関して、フリーランスが気を付けるべきことを詳しく解説します。
業務上のやり取りを保存する
フリーランスがクライアントと行う業務上のやり取りは、未払いなどのトラブルが発生した際に重要な証拠となります。そのため、メールや電話の記録をすべて保存しておくことが大切です。
特に、SNSやチャットツールは削除や改ざんが容易なため、メールなど改変が難しい方法を活用するのがおすすめです。電話でのやり取りについては、通話記録が残せない場合、やり取りした内容をメールで確認する習慣をつけると良いでしょう。
また、履歴を削除されるリスクに備え、スクリーンショットや出力機能を使い、クラウドや外部ドライブにバックアップを取ることも有効です。
エージェントサービスなどの仲介業者を利用する
フリーランスエージェントサービスやクラウドソーシングを利用することで、未払いリスクを減らすことが可能です。実際、直契約で業務を行う場合のトラブル発生率は37.7%である一方で、仲介業者を利用した場合は20.9%に低下するとのデータがあります。(※)
エージェントサービスを利用することのメリットとして、エージェントが契約手続きや報酬支払い管理を行い、クライアントとのトラブル発生時にはサポートを受けられる点が挙げられます。
また、クラウドソーシングでは取引の証拠がプラットフォーム上に残り、仮払いや前払いの仕組みが整備されているため、個別で直接契約を結ぶのに比べて安心感があります。ただし、手数料が発生する場合があることや、未払いリスクが完全になくなるわけではない点には注意が必要です。
※ フリーランス実態調査結果/内閣官房日本経済再生総合事務局
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まとめ
フリーランスの報酬に関するトラブルは、適切な準備や対応を行うことで未然に防ぐことができます。
契約書の作成や信頼できる取引先の選定、エージェントサービスの活用など、リスクを減らすための方法を取り入れることが重要です。
また、万が一トラブルが発生した際には、冷静に対処し法的手段も視野に入れることで、報酬の回収が可能となるケースもあります。
フリーランスが安心して働ける環境を整えるために、一つ一つの対策を実践していきましょう。
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