フリーランスが法人化するタイミングは?手順や税金対策について解説
フリーランスとなって順調に利益が出せるようになってくると、納めるべき税金の額を見て「多い……」と感じるシーンも出てくるでしょう。また、個人事業主のままでいると、「法人化(法人成り)」するよりも税金を多く支払い続けることになるかもしれません。
そこで、法人化するかどうか悩んでいる、事業を成長させるために節税対策を検討したいという方に向けて、フリーランスが法人化するメリットやデメリットについて解説していきましょう。
※本記事ではフリーランス=個人事業主として記載しています。
この記事の監修者
INTLOOP株式会社
車地美香
ホテルにてウェディングプランナー(営業職)として400名を担当した後、マネージャーとして組織運営を経験。その後派遣会社の管理部門や大手総合電気メーカーにて人事・労政企画に従事し現職INTLOOPに入社。
INTLOOPに入社し東京で人材営業に携わった後、大阪…
そもそも法人とは?
法人とは、法律によって権利・義務が認められている組織のことです。法人=”法”律で認められた”人”であり、人と同じように売買や雇用などといった法律行為を含むさまざまな経済活動を行うことができます。
法人には大きく分けて「私法人(営利目的の法人)」、「私法人(非営利目的の法人)」、「公法人(公共団体)」があります。起業や個人事業主からの法人化に際しての「法人」という場合には、一般的に営利目的の法人である「営利法人(会社)」を指します。
フリーランスの法人化は、基本的には収入や案件が安定してから考えるのが一般的です。
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営利法人の種類
現在設立できる営利法人は、株式会社・合同会社・合資会社・合名会社の4種類です。
株式会社 | 株式を発行して出資者(株主)に販売し、株主から資金を集めて経営を行う会社形態。以下の3形態と異なり、所有と経営が分離している。 |
合同会社 | 会社に出資した人が会社の所有者(経営者)となる会社形態。 |
合資会社 | 会社の債務に対し無制限に責任を負う「無限責任社員」と、会社の債務に対し出資額までの責任を負う「有限責任社員」とで構成される会社形態。 |
合名会社 | 出資者となる社員が全員、「無限責任社員」である会社形態。個人事業主が集まったような形。 |
なお現在でも存続している「有限会社」も営利法人の1つですが、2006年の会社法によって廃止されており、新しく設立することはできません。
営利法人の会社形態の割合
日本では営利法人の4つの会社形態のうち、株式会社が91.2%、合同会社が5.6%と、この2つが多数を占めています。「個人事業主からの法人化」というとたいていの場合、株式会社か合同会社の設立を目指すことになります。
参考:令和3年度分会社標本調査-調査結果報告-|国税庁
法人と個人事業主との違い
個人事業主とは、法人を設立せず、個人で継続的に事業を行っている人を指します。税務署に個人事業主として開業届(個人事業の開業・廃業等届出書)を出せば、正式に個人事業主になることが可能です。
個人事業主と法人はそれぞれメリット・デメリットがあり、個人事業主として働いていても事業の状況によっては法人化するほうがよいケースがあります。
フリーランスが法人化するメリット
フリーランスが法人化するメリットを、個人事業主の場合と比較しながら8つ紹介します。
所得税/法人税を節約できる
事業所得に関する税金は、個人事業主は所得税、法人は法人税を納付することになります。
個人事業主の所得税は、所得金額によって税率が上がっていきます。
課税される所得金額 | 税率 | 控除額 |
1,000円 ~ 1,949,000円 | 5% | 0円 |
1,950,000円 ~ 3,299,000円 | 10% | 97,500円 |
3,300,000円 ~ 6,949,000円 | 20% | 427,500円 |
6,950,000円 ~ 8,999,000円 | 23% | 636,000円 |
9,000,000円 ~ 17,999,000円 | 33% | 1,536,000円 |
18,000,000円 ~ 39,999,000円 | 40% | 2,796,000円 |
40,000,000円 ~ | 45% | 4,796,000円 |
参考:所得税の税率|国税庁
個人事業主の場合、課税される所得金額が上がると税率も増えていきます。表を見ると、所得金額8,999,000円までは税率が23%以下ですが、9,000,000円からは段階的に税率が33%、40%、45%と上がっていくのがわかります。
対して法人が納付する法人税は、法人の区分によって異なり、税率は最大で23.20%です。
■普通法人の場合(適用年度:2022年(令和4年)4月1日以後)
区分 | 税率 | ||
①資本金1億円以下の法人など | 年800万円以下の部分 | 下記以外の事業者 | 15% |
適用除外事業者 | 19% | ||
年800万円超の部分 | 23.20% | ||
②①以外の普通法人 | 23.20% |
※上記は簡易的な表です。詳しくは国税庁のサイトをご参照ください。
参考:法人税の税率|国税庁
多くのフリーランスに該当するであろう「資本金1億円以下の中小企業」のうち、年間800万円以下の所得については、15%の税率が適用されます。控除分を差し引いても、法人の方が税金の額が少なくなるケースがあります。
役員報酬で節税できる
法人では、役員の給与である役員報酬を要件を満たせば損金として算入できます。損金は経費と同様に課税所得から差し引くことができるため、法人として節税が可能となります。ただし役員個人の所得が増えるため、個人の所得税の額が増加する可能性があることには注意が必要です。
個人事業主には役員報酬のように報酬の受け渡しの概念はなく、事業所得から経費を引いた額が自分の所得となるため、このような節税方法はありません。
消費税の納付が2年間免除される
事業者が適格請求書発行事業者ではない場合、課税期間の基準期間における課税売上高が1,000万円以下の事業者は、消費税の納税義務が免除されます。
法人の場合は原則として、その事業年度の前々事業年度(2年度前)の課税売上高が消費税計算の基準期間です。設立1期目と2期目(設立1、2年目)の基準期間はなく、原則として納税義務が免除されます。したがって最大2年間免除されるということになります。
ただし次の場合には消費税の納付は免除されません。
- 適格請求発行事業者の場合
- 新設法人の納税義務免除の特例に該当する場合
赤字の繰り越し計上の期間が長くなる
青色申告を行っている法人は、赤字(欠損金)が発生しても翌年度以降に欠損金を繰り越すことができます。繰り越せる期間は最大10年です。平成30年4月1日より前に以降に事業を開始した場合には最大9年となります。
青色申告を行っている個人事業主も、赤字(純損失)を翌年以降繰り越せますが、その期間は3年間です。赤字の処理に関しては法人の方が繰り越し計上の期間が長くなります。
社会保険に加入できる
法人化すると、従業員全員が社会保険に加入することになります。これは会社の義務です。
年金は厚生年金保険となり、厚生年金に加入すると、将来受け取れる年金額が国民年金よりも多くなります。
また健康保険については、中小企業であれば「全国健康保険協会(通称、協会けんぽ)」が加入先の候補となります。大企業の場合には、独自に健康保険組合を設立することも可能です。ほかに、特定の業種で構成された健康保険組合に加入する方法もあります。
怪我や病気に備える労災保険、失業した際に備える雇用保険、40歳以上の人であれば介護保険にも加入することができます。これらの補償で万が一の際は、個人事業主では受けられない手厚い補償が受けられるのです。
有限責任になる
有限責任とは、会社が倒産したときなどにその人の出資額を限度として、それ以上の額を支払わなくてよいという責任範囲です。無限責任は負債に対して、事業の資産からではなく個人の資産からも支払わなければならないという責任範囲です。
株式会社と合同会社の場合は、有限責任となります。対して無限責任となるのは、フリーランスや合名会社・合資会社の無限責任社員です。無限責任の場合、たとえば損害賠償金が事業の資産からではまかなえない際に、個人の資産から支払うという事態になることもあり得ます。
参考:有限責任と無限責任について教えてください。ビジネスQ&A|J-Net21
決算期を自由に設定できる
個人事業主の会計期間は1月1日~12月31日であり、決算月は12月と決まっていますが、法人は事業年度の決算月を自由に設定することが可能です。
もし決算月と仕事の繁忙期が同じ月であれば、普段の事業に決算業務が加わり、多忙となってしまいます。法人は仕事の繁忙期と決算期をずらせるため、業務の集中が避けられます。
社会的信用が向上する
企業のなかには、個人事業主よりも法人の方が信用があるとして、個人事業主と取り引きをしないと定める企業もあります。法人化すればこういった企業とも、法人対法人の取り引きができるようになります。
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フリーランスが法人化する際の注意点
法人となると、たとえ事業が赤字でも行わなければならないことがあります。また法人設立時を始め、手続きが複雑です。法人化によるデメリットをフリーランスの場合と比べて紹介します。
赤字でも法人住民税は発生する
個人事業主の場合には、その年度における事業が赤字になると個人の所得もマイナスとなり、所得税や住民税の負担はなくなります。
法人は、赤字であっても「法人住民税」を地方に支払う必要があります。法人住民税は、法人の規模によって支払額が決まる「均等割」と、国への法人税額を基準にして支払う「法人税割」で構成されています。「均等割」はその年の売上とは関係なく計算されるため、最低でも均等割分は納税しなければなりません。なお法人税や地方法人税、法人事業税、特別法人事業税は、赤字の場合は免除となります。
全従業員への法定義務を果たさなければならない
社会保険へ加入させることが必須
法人化すると社会保険への加入が必須となります。厚生年金保険料や健康保険料などは、労使折半といい、会社と被保険者が保険料を半額ずつ支払います。これは事業赤字になっても支払わなければなりません。
健康診断も法定義務
健康診断の実施も企業の法的義務で、企業の経営状況とは関係なく従業員に健康診断を受けさせなければなりません。
https://www.mhlw.go.jp/shingi/2009/01/dl/s0119-4h.pdf
ただ、社会保険も健康診断も従業員の福利厚生を充実させて安心して仕事をするための制度であり、会社にとって必ずしもデメリットのみとは言えません。
法人設立に費用がかかる・法人ならではの手続きが複雑
個人事業主は開業届を出すだけで業務を開始できますが、法人の場合には、定款の認証や司法書士への依頼などで費用がかかります。
また、法人は提出する書類が多く、手続きが複雑です。法人設立後も、株式会社なら株主総会を開くなど、実施すべきことがあります。
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フリーランスが法人化する適切なタイミング
法人化のベストタイミングにはさまざまな考え方がありますが、検討の目安となるのは所得税の納税率が上がるとき、あるいは消費税がかかるようになったときです。
課税所得900万円が見えてきたとき
個人事業主の場合、課税所得が900万円を超えると所得税率が33%以上となります。控除額は設定されているものの、所得が増加することが見込まれる場合には、後々納税額が大きくなる可能性があります。
法人化すれば、法人税の税率は最大23%となり、個人事業主よりも納税額が低くなります。したがって課税所得600万円~700万円あたりから意識し、事業の業績が安定して課税所得900万円が見込めるようになったら、法人化を具体的に検討してみましょう。
課税売上が1000万円を超えたとき
課税売上高が1000万円を超えると、適格請求発行事業者かどうかに関わらず、個人事業主でも法人でも消費税の納税義務が生じます。しかし条件はありますが、原則として新しい会社の設立後2年は消費税納税の免除される期間です。課税売上が1000万円を超えたタイミングに合わせて法人化を行うと、最高2年間の免税期間を得られる可能性があります。
ただし、法人の資本金が1000万円を超えている場合や適格請求書発行事業者の場合など、消費税納税免除が適用されない場合もあります。
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フリーランスが法人化する大まかな流れ
法人化の手続きについて、株式会社の設立を例に、大まかな流れをご紹介します。
発起人の決定
会社設立の手続きを進める人である「発起人」を決めます。発起人は1人以上で、法人も発起人になることが可能です。会社が設立できなかった場合や出資金が不足していた場合などには、発起人が責任を負うことになります。
基本事項の決定
会社設立のための基本事項を検討し、決定します。ここで決定する事項は、のちの定款作成に必要となります。
<基本事項の例>
- 会社名(商号)
- 会社の目的
- 事業内容
- 本店の所在地
- 資本金の額
- 持ち株比率
- 役員構成
- 決算期 など
定款の作成・認証
定款とは、法人の組織活動にあたって、根本の原則となるものです。
定款の作成
株式会社を設立するときには発起人が定款を作成し、発起人全員が署名または記名・押印をしなければなりません。
定款に記載する事項の種類は、3つあります。
- 絶対的記載事項:必ず記載しなければならない事項。目的、会社名(商号)、本店の所在地、出資金、発起人の氏名・名称および住所
- 相対的記載事項:必ず記載しなくていいものの、定款に記載がなければできない事項。変態設立事項、株式の譲渡制限など
- 任意的記載事項:絶対的記載事項・相対的記載事項以外の事項で、会社法の規定に違反しないもの
定款の認証
完成した定款を公証人がチェックし、間違いのない定款であることを認証します。認証方法は大きく分けて書面(紙)で行う場合と、オンラインで申請を行う電子認証があります。認証には公証人への手数料や、書面の場合には収入印紙代などの費用が必要です。
印鑑の購入
社名が決まったら、代表者印(実印)や角印などの印鑑を作ります。
銀行口座の用意・出資金の払い込み
会社設立前で会社名義の銀行口座は作れませんが、出資金を払い込むために発起人名義の銀行口座を用意します。その銀行口座に出資金を払い込みます。
法人登記
法人登記のための書類を揃え、法務局で登記申請を行います。
<必要な書類の一部>
登記申請書、登録免許税納付用台紙、定款、発起人の決定書、取締役の就任承諾書、代表取締役の就任承諾書、出資金払い込み証明書、印鑑届出書、記録媒体
定款の作成や認証手続き、登記は複雑で専門知識が必要であるため、司法書士や行政書士とともに進める方法もあります。行政書士は相談や定款関連書類の作成、司法書士であれば、相談・定款作成に加えて登記の代理申請まで任せることが可能です。またテンプレートに従って定款を作成できるツールもいくつか存在します。
法人設立後に行うこと
法人設立後は、年金事務所や税務署、役場への書類の提出が必要です。
年金事務所への提出書類 | 「健康保険・厚生年金保険新規適用届」「健康保険・厚生年金保険被保険者資格取得届」 「健康保険被扶養者(異動)届」(家族を被扶養者にする場合) |
税務署への提出書類 | 「法人設立届出書」 「給与支払事務所等の開設届出書」 「青色申告の承認申請書」 「源泉所得税の納期の特例の承認に関する申請書」 「棚卸資産の評価方法の届出書」 「減価償却資産の償却方法の届出書」 |
都道府県税事務所や市町村役場への提出書類 | 「法人設立届出書」 ※詳しくは本店を置く都道府県税事務所や市町村役場にて手続きをご確認ください。 |
TECH STOCKはスキルや希望にマッチする案件をご紹介するだけでなく、税理士や社労士の紹介、法人化の相談、アサイン後のフォローアップなど、案件紹介以外のフォローも充実しております。
まとめ
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