スキル・知識

システムのグランドデザインを描くシステムアーキテクト試験の難易度は?

更新日 2024/10/18

ITエンジニアが上流工程で活躍できるスキルを示し、キャリアアップに役立てられる資格としてシステムアーキテクト試験があります。高度なIT人材向けの資格のため、受験を検討する方にとって気になるのが試験の難易度です。

本記事では、システムアーキテクト試験の概要、メリット、難易度、学習方法について解説します。合格に向けた計画的な学習にお役立てください。

システムアーキテクトとは

システムアーキテクトとは、ITシステムの構造や構成(アーキテクチャ)を設計するエンジニアです。ITアーキテクトと呼ばれることもありますが、明確な定義はありません。一般的には、IT戦略に基づいてITシステムの設計を担う上流工程を担うエンジニアを指します。したがって、システムアーキテクト試験は、上流工程を指揮する立場の上級エンジニアを目指す方にとって、最適な資格試験と言われています。

システムアーキテクトの資格保有者の仕事内容の例

システムアーキテクト資格を保有するエンジニアの主な業務は、情報システム戦略に基づくシステム企画立案、システム開発プロジェクトにおける要件定義やシステム方式設計、評価、ITプロダクトのサービス運営などが挙げられます。他にも、企業や組織の情報システム化戦略において、システム戦略全体から個別のシステムを具体化し推進する役割も含まれています。

一般的なプロジェクトに従事するエンジニアの上位に該当するため、対象分野が広く、アプリケーションやインフラストラクチャ、これらを統合したシステムインテグレーションなどと多岐にわたります。企業や組織の持つIT全体と個別のシステムを兼任するケースも珍しくありません。

なお、所属組織や業務上のポジションによって、仕事の内容や組織内でのポジションや役割は異なります。

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ひと口にITエンジニアといっても、専門性によって職種は細分化されています。ITエンジニアとして活躍したいと考えたとき、どのようなスキルを身につけるべきなのかは、目指したい分野によって大きく異なります。

ITエンジニアの分類は、大別して開発系エンジニア、インフラ系エンジニア、そのほかの3種類ありますが、それぞれの分類のなかでさらに細分化されています。本記事では、ITエンジニアの職種や年収、向いている人や将来性などについて解説します。

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プロジェクトにおけるシステムアーキテクトの資格保有者の立ち位置

システムアーキテクトは、特定のポジションが決まっているわけではありません。

システムアーキテクト試験では、システム開発の上流工程を主導する立場であるプロジェクトリーダーやチームリーダーなどのポジションが想定された試験が出題されます。また、ユーザー企業内のIT部門におけるリーダーポジションもシステムアーキテクトとして活躍できると言えるでしょう。

システムアーキテクト試験とは

システムアーキテクト試験は国家資格であり、合格することで上流工程を担うエンジニアとして、高度なスキルと知識を持っていることを証明することができます。

情報処理技術者試験のうち、高度な技術者向けの一分野

情報処理技術者試験は、独立行政法人情報処理推進機構(以下、IPA)が運営し、経済産業省が認定するITエンジニア向けの国家資格です。

システムアーキテクト試験は、情報技術者試験の中でもレベル4という高度な技術者向けの試験のカテゴリのひとつです。エンジニアとしての基礎を問われる基本情報技術者試験、その上の応用レベルの知識が問われる応用情報技術者試験よりも試験体系の上位に位置しています。

対象者の人材像

システムアーキテクト試験の対象者は、IT分野で高度な専門知識を持ちつつ、ITストラテジストの提案をもとにシステム開発の要件を定義し、実現するためのアーキテクチャを設計し、開発を主導する役割を担う人を想定しています。

システム開発プロジェクトの上流工程において要件定義や設計を実施する高度なITエンジニア向けの試験に位置づけられています。

どんな人材が受験するべき?

システムアーキテクト試験は、下流工程で開発を担ったエンジニアが上流工程を担当するエンジニアへとステップアップする際に取得することが推奨されます。この資格は、上流工程で活躍できるスキルと知識の保有を証明できるため、エンジニアとしてのキャリアアップを後押しする役割を果たします。

また、システムアーキテクト試験を持っていると所属組織内でのスキルアピールとして活用できるため、組織およびプロジェクト内でのポジション向上にも役立つでしょう。フリーランスエンジニアの場合、案件のアサイン時にスキルの保有を証明できるため、上流工程を担当する案件に対するアピールとしても活用できます。

先述の通り、システムアーキテクト試験は情報処理技術者試験のなかでも、レベル3の応用情報技術者試験よりも上のレベル4であり、難易度が高めです。また、応用情報技術者試験の場合、エンジニアとして3年を越えた実務経験を目安としていますが、システムアーキテクト試験に挑戦するためには、さらに長い実務経験が必要なる可能性が高いです。実務経験が3〜5年までのエンジニアにとって、システムアーキテクト試験の難易度は高く、エンジニアとしてある程度の経験を積んでからの受験を推奨します。

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システムアーキテクト試験の難易度、合格率

システムアーキテクト試験は、ITSS(ITスキル標準)キャリアフレームワークのレベル4に相当します。レベル4は「プロフェッショナルとしてスキルの専門分野を確立し、自らのスキルを活用することによって、独力で業務上の課題の発見と解決をリードするレベル」であり、高度な技術者向けのため難易度は高いと言えるでしょう。

引用:IPA 独立行政法人 情報処理推進機構|2.ITスキル標準とは -ものさしとしてのスキル標準

ITSSは、IPAなどによりIT関連サービスの提供に向けたスキルを明確化した指標です。このITSSに対して、特定非営利活動法人スキル標準ユーザー協会による「ITSSのキャリアフレームワークと認定試験・資格とのマップ Ver11r2」では、情報技術者試験やベンダー資格をITSSキャリアフレームワークのレベルにマッピングしています。この資料では、IT関連資格の保有がエンジニアなどのIT関連職種のスキルレベルとしてどの程度なのかを確認することが可能です。

また、システムアーキテクト試験の難易度を示すデータとして、過去の受験者に関する統計情報があります。システムアーキテクト試験は2009年度秋期以降の累計でも合格率の平均は14.1%です。また、合格者の平均年齢は30代中盤に集中しており、年齢的にもエンジニアとしての十分な経験が求められていることが示されています。

【システムアーキテクト試験の受験者数、合格者数、合格者の平均年齢】

  受験者数(人) 合格者数(人) 合格者の

平均年齢

合格率
2009年度秋期 8,395 1,112 34.7 13.2%
2010年度秋期 8,167 1,022 34.5 12.5%
2011年度秋期 6,509 966 35.5 14.8%
2012年度秋期 6,683 965 35.7 14.4%
2013年度秋期 6,113 864 36.1 14.1%
2014年度秋期 5,735 860 36.7 15.0%
2015年度秋期 5,274 697 36.3 13.2%
2016年度秋期 5,363 748 37.2 13.9%
2017年度秋期 5,539 703 36.6 12.7%
2018年度秋期 5,832 736 36.5 12.6%
2019年度秋期 5,217 798 37.3 15.3%
2021年度春期 3,433 567 36.4 16.5%
2022年度春期 3,474 520 36.6 15.0%
2023年度春期 3,679 581 36.6 15.8%
2024年度春期 3,666 549 36.3 15.0%
合計 83,079 11,688 14.1%

出典: IPA 独立行政法人 情報処理推進機構|情報処理技術者試験・情報処理安全確保支援士試験 推移表(平成21年度春期以降) IPA 独立行政法人 情報処理推進機構|平均年齢をもとに表を作成

システムアーキテクト試験の概要

システムアーキテクト試験の開催日程、試験形式、試験構成、試験範囲および受験料などは下記の通りです。なお受験にあたっては、IPAの公式サイトにて最新の情報をご確認ください。

試験日程

システムアーキテクト試験は年1回、春期に実施されています。春期試験は例年4月の日曜日に実施されています。参考として、2024(令和6)年は4月21日試験実施、申し込み締め切りは2月7日17時でした。

試験は4部構成で9:30~16:30まで午前と午後にまたがって実施されます。詳細は「試験の構成」の項を参照ください。

試験形式

試験形式は、会場での筆記試験となります。詳細は試験の構成でも言及しますが、選択問題、記述式問題、論文形式全てが含まれます。

試験の構成

システムアーキテクト試験は、午前2部、午後2部の4部構成で実施されます。各部の試験形式、試験時間、問題数は下記の通りです。なお、出題数と解答数の違いは、選択問題によるものです。

試験形式 試験時間 出題数、解答数
午前Ⅰ 多肢選択式(四肢択一) 50分

9:30~10:20

出題数:30問

解答数:30問

午前Ⅱ 多肢選択式(四肢択一) 40分

10:50~11:30

出題数:25問

解答数:25問

午後Ⅰ 記述式 90分

12:30~14:00

出題数:3問

解答数:2問

午後Ⅱ 論述式 120分

14:30~16:30

出題数:2問

解答数:1問

試験範囲

試験の対象範囲については、IPA公式ホームページの試験要綱およびシラバスにて定められています。なお、注意事項として試験要綱は2024年10月以降、シラバスは2024年度秋期より更新されているため注意ください。

午前の試験では共通キャリア・スキルフレームワークより下記から出題されます。午前Iはすべての範囲から共通知識、午前IIでは専門知識が問われます。

以下は午前IIの試験出題分野です。○は出題範囲であることを、◎は出題範囲のうちの重点分野であることを示します。また、3、4は技術レベルのことです。4が最も高く、上位は下位の範囲を含んでいます。中分類 11:セキュリティ」の知識項目として、技術面と管理面の両方が含まれますが、人材像にとって関連性の強い知識項目をレベル4として出題します。

分野 大分類 中分類 該当範囲
テクノロジ系

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

1

 

基礎理論

 

1 基礎理論
2 アルゴリズムとプログラミング  
2

 

 

 

コンピュータシステム

 

 

 

3 コンピュータ構成要素 ○3
4 システム構成要素 ○3
5 ソフトウェア
6 ハードウェア
3

 

 

 

 

技術要素

 

 

 

 

7 ユーザーインタフェース ○3
8 情報メディア
9 データベース ○3
10 ネットワーク ○3
11 セキュリティ ◎4
4

 

開発技術

 

12 システム開発技術 ◎4
13 ソフトウェア開発管理技術 ○3
マネジメント系

 

 

5 プロジェクトマネジメント 14 プロジェクトマネジメント
6

 

サービスマネジメント  15 サービスマネジメント
16 システム監査
ストラテジ系

 

 

 

 

 

 

7

 

システム戦略

 

17 システム戦略 ○3
18 システム企画 ◎4
8

 

 

経営戦略

 

 

19 経営戦略マネジメント
20 技術戦略マネジメント
21 ビジネスインダストリ
9

 

企業と法務

 

22 企業活動
23 法務

出典元:IPA|情報処理技術者試験 情報処理安全確保支援士試験 試験要綱 Ver.5.3をもとに表を作成

午後の試験範囲については、下記のとおりです。

1 契約・合意に関すること 提案依頼書(RFP)・提案書の準備
プロジェクト計画立案の支援
など
2 企画に関すること 対象業務の内容の確認
対象業務システムの分析
適用情報技術の調査
業務モデルの作成
システム化機能の整理とシステム方式の策定
サービスレベルと品質に対する基本方針の明確化
実現可能性の検討
システム選定方針の策定
コストとシステム投資効果の予測
など
3 要件定義に関すること 要件の識別と制約条件の定義
業務要件の定義
組織および環境要件の具体化
機能要件の定義
非機能要件の定義
スケジュールに関する要件の定義
など
4 開発に関すること システム要件定義
システム方式設計
ソフトウェア要件定義
ソフトウェア方式設計
ソフトウェア詳細設計
システム結合
システム適格性確認テスト
ソフトウェア導入
システム導入
ソフトウェア受入れ支援
システム受入れ支援
など
5 運用・保守に関すること 運用テスト
業務およびシステムの移行
システム運用の評価
業務運用の評価
投資効果および業務効果の評価
保守にかかわる問題把握および修正分析
など

出典元:「システムアーキテクト試験(レベル4)」シラバス をもとに表を作成

受験料

情報技術者試験の受験料は全試験で共通して7,500円です(2024年9月時点)。システムアーキテクト試験の場合は消費税込みとなります。

システムアーキテクト試験は経済産業省の認定する国家資格であり、期限や更新などは必要ありません。ベンダー試験と比較すると受験料、維持費用いずれにおいてもコストパフォーマンスが高いと言えるでしょう。

システムアーキテクト試験を受けるメリット

ITエンジニアにとって、IT関連資格にはさまざまなメリットが存在します。特にシステムアーキテクト試験について受験および資格の取得によるメリットは下記の通りです。

スキルや知識の証明になる

システムアーキテクト試験に合格することで、上流工程の業務に対応できるスキルを持っていることをアピールできます。特に、システム企画などの上流工程をキャリアパスとして目指している場合、有用なスキルの習得として証明ができ、志願する業務に入りやすくなることは大きなメリットとなるでしょう。プロジェクトへのアサインにおいても、上流工程を担当する案件に声がかかりやすくなります。

プログラミングや開発のスキルを示せる資格は、ほかにも多数存在します。たとえば、言語ごとの資格として、Oracle認定JavaプログラマRuby技術者認定、テストに関する資格ではJSTQBなどが挙げられます。

実際のところ、設計に関するスキルと知識を示せる資格は少ないため、システムアーキテクト試験に合格しているということは、高い価値を生むと言えます。

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特に国家資格を取得したエンジニア人材は市場価値が上がり、引く手あまたになります。目的に合わせた資格を取得して、理想のキャリアを実現しましょう。

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市場価値が高まる

エンジニア市場において人材の価値の評価基準となるのが、スキルや技術力の保有と業務経験です。

システムアーキテクト試験に合格するには、幅広いITに関する知識を習得するための学習が必要です。また、午後の試験では、エンジニアとしての業務経験にまつわる実践的な知識も問われます。

特に上流工程の業務に必要な設計スキルを積むには、実務で経験を重ねるのが最適です。システムアーキテクト試験では設計、スキルの保有を証明できるため、他の方法で証明しにくい能力をアピールする手段となります。このような観点から、システムアーキテクト試験の合格は、エンジニアの市場価値向上に効果的と言えます。

また、すでに上流工程で活躍しているエンジニアにとっても、システムアーキテクト試験に合格することで、これまでの知識を整理・棚卸し、体系的に理解していることを示すことができます。

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転職、キャリアアップに役立つ

システムアーキテクト試験に合格することは、市場価値が高まるだけでなく、転職の際にも有用です。上流工程で活躍できることが証明できるため、転職活動のエントリーにも有利に働くことが期待でき、転職先探しにおいて選択肢が広がります。

転職だけではなくエンジニアの所属組織内でのキャリアアップにも、システムアーキテクト試験への合格は役立ちます。設計スキルの保有を証明することで、上流工程の業務に携わる機会を増やせるでしょう。

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システムアーキテクト試験の勉強法

システムアーキテクト試験は、午前、午後で試験範囲や解答方法などが異なり、両方へ対策が必要となります。また、システムアーキテクト試験の試験範囲は非常に広いため、計画的に学習することが重要です。

以下では、システムアーキテクト試験合格に向けた学習方法について紹介します。必要に応じて、組み合わせてご利用ください。

過去問の活用

過去の試験問題の活用はベーシックな学習方法のひとつです。過去のシステムアーキテクト試験の問題、および午前では範囲の重複する応用情報などの過去問も活用できます。

IPAではシステムアーキテクト試験の過去問題をWeb上で公開しています。これらを繰り返し解いて、理解を深めると良いでしょう。

また、IPAの公開する過去問題には解答はありますが、解説は含まれていません。一般に販売されている書籍では、解説も付け加えられているため活用しましょう。以下は、おすすめの書籍です。

【おすすめの書籍】

論文対策講座の受講

午後Ⅱの論述式の問題では、エンジニア自身の経験を落とし込んで小論文にまとめます。参考書などでも対策できますが、文章作成に自信がない場合には対策講座の利用もおすすめです。論述式の解答に対して添削などを受けられ、午後Ⅱの対策に役立ちます。

【おすすめの講座】

論文に向けた業務事例の調査

午後Ⅱの試験では、エンジニア自身の業務経験から題に沿った小論文を書き上げることが求められます。経験豊富なエンジニアの場合は論文対策もしやすいですが、経験が浅い場合や業務経歴に幅がない場合には他者の業務事例をインプットして対策する必要があります。

所属組織の持つ事例などを読み込んで引き出しを多く持ち、自身の経験と組み合わせて論文に落とし込めるまでの訓練が必要です。

スクールなどの活用

システムアーキテクトの取得に向けたコースを提供しているスクールもあります。他の学習方法と比べコストは高めですが、有効な学習方法です。

【おすすめのスクール】

まとめ

システムアーキテクト試験は、システム開発の上流工程を担当するエンジニア向けの資格試験です。合格することで、要件定義や設計に関するスキルと知識の保有が証明できます。国家資格という特性上、国内での知名度があり、上流工程へキャリアアップしたいエンジニア、上流工程を担当するエンジニアへの転職、フリーランス案件へのアサイン対策にもおすすめです。

受験者の年齢やキャリアなどの過去の統計情報から、試験の難易度は高いと言えます。したがって、選択式と記述式、論述式といった試験の4部構成の対策をくまなく行うことが重要です。学習方法には、過去問題、テキスト、論文対策の通信講座などの利用があるため、自分にとって適切な手段を考えたうえで、対策を進めていきましょう。

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