個人事業主の所得税計算方法は?節税方法も紹介【専門家監修】
毎年確定申告の時期になると、個人事業主が向き合わなければならないのが税金です。1年間の収入にかかる所得税を自分で計算して納めます。会社員は勤務先が計算して納税までしてくれるので、税の知識がなくても済んでしまうこともありますが、個人事業主の場合は、「気がついたらお金は使ってしまって税金が払えない」などというような事態に陥ることも。一方、税制には優遇制度もあるので、税の仕組みをよく理解して、手元にお金が残るよう上手に利用しましょう。
この記事の監修者
有限会社ファイナンシャル教育社 取締役
内田 ふみ子
教育書・教科書教材等の編集者を経て独立。現在は、多重債務相談員や自治体職員に向けた研修などの企画運営、および教育分野の編集業務、金融教育関連の教育業務を行う。
所得税とは?
所得税とは1年間(1暦年)の所得に対して課される税金で、国に納める国税です。個人事業主の場合、所得税を自分で計算して「確定申告」をする必要があります。
その他に、個人事業主が納める必要がある税金としては「住民税」と「個人事業税」が存在します。住民税は居住する自治体、個人事業税は物品販売業やコンサル業など法定業種を営んでいる場合に都道府県に納めます。基本的には所得税の確定申告をするとその情報が自治体にいくため、住民税等の申告は不要です。
収入と所得は異なる
所得税の「所得」は、日常生活では「収入」と同じように使われることもありますが、税に関しては区別されています。収入は、販売やサービスの売上であり、社会保険料なども含め会社がその人に支払った全額を指します。
しかしその収入を得るために仕入れをしたり、光熱費や人件費などもかかっていたりしているため、収入の多寡が必ずしも手元に残るお金の多寡とは一致しません。そのため税の計算では、収入からその収入を得るためにかかった必要経費を差し引いた「所得」を用います。
なお、必要経費は所得の種類によってその担税力(税を負担する能力)に応じた算出方法となっています。
所得の種類は10種類
所得税のかかる「所得」は、勤労によるのか、事業経営や資産運用によるのか、といった所得が生ずる形態によって次の10種類に区分されています。
- 利子所得
- 配当所得
- 不動産所得
- 事業所得
- 給与所得
- 退職所得
- 山林所得
- 譲渡所得
- 一時所得
- 雑所得
個人事業とは、このうちの事業所得、不動産所得、山林所得を生じる事業です。(※)それぞれの概要は次のようになります。
農業、漁業、製造業、卸売業、小売業、サービス業その他の事業から生ずる所得
※不動産の貸付けや山林の譲渡による所得は、原則として不動産所得や山林所得
● 不動産所得
土地・建物など不動産の貸付け、地上権など不動産上の権利の貸付け、船舶・航空機の貸付けによる所得
※事業所得または譲渡所得に該当するものを除く
● 山林所得
山林を伐採して譲渡したり、立木のまま譲渡することによる所得
※取得後5年以内に譲渡した所得は、事業所得または雑所得
個人事業主は自分で税額を計算して納付
所得税は、納税者自らが1年間の所得金額を計算して確定申告を行い、その申告に基づいて納付する申告納税方式を基本としています。そのため、個人は1月1日から12月31日までの所得について、翌年2月16日から3月15日の間に、自分で税額を計算して税務署に確定申告書を提出し、税を納付します。
個人事業主は、まず1年間の収入と支出を帳簿に記録し、収入から必要経費を差し引いて所得を算出します。あとは確定申告書の書式に従って記入していけば、所得税額の算出はそれほど難しいものではありません。
ただ、初めての確定申告では戸惑ってしまうこともあるため、あらかじめ税の仕組みや計算方法を把握しておくと、スムーズに手続きできます。それでも自分には難しいと感じる場合などは、税理士に依頼して確定申告をする方法もあります。
確定申告が不要な所得もある
ただし、所得の種類や金額によっては確定申告が不要なこともあります。たとえば給与を受け取っている会社員は、勤務先が毎月源泉徴収して納税し年末調整で精算するため、給与収入について確定申告する必要はありません。
しかし、会社員でも給与所得・退職所得以外の所得の合計が20万円を超えたり、給与収入が2000万円超の場合などは確定申告をしなければなりません。また、各種所得を合計し、最終的に算出した所得税額から配当控除を差し引いた額がゼロかマイナスになる場合も、確定申告は不要です。
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個人事業主の所得税額の計算手順と補足事項
個人事業に関わる所得は「事業所得」「不動産所得」「山林所得」の3つです。たとえば事業所得にかかる所得税額を計算するには、事業所得から個人の事情に配慮した各種所得控除を適用し、課税所得を求めます。
事業所得-所得控除=課税所得
課税所得×所得税率=所得税額
【STEP1】対象となる年の1年間の総収入額を計算
事業所得-所得控除=課税所得
課税所得×所得税率=所得税額
STEP1では必要経費を算出していきましょう。
事業所得等を算出するのに必要になります。事業所得/不動産所得/山林所得を得ている個人事業主は、青色申告や白色申告に関わらず、収入金額や必要経費について記帳し、その帳簿と関連書類を保存しておかなければなりません。
- 取引の年月日
- 売上先・仕入先の相手方の名称
- 金額
- 日々の売上げ・仕入れ・経費の金額 等
記帳された帳簿から収入を抽出して年間収入を出します。この計算は帳簿さえ整っていれば、確定申告のハードルはそれほど高くありません。
ただ、この記帳が大変という人もいることでしょう。白色申告であれば簡易な方法での記帳も認められており、税務署で記帳説明会もあるので、自分自身で帳簿を付けられるように努めてみましょう。
【STEP2】必要経費を収入から差し引いて事業所得等を算出
事業所得-所得控除=課税所得
課税所得×所得税率=所得税額
STEP2では、確定した年間収入から必要経費を差し引いて、事業所得等を算出していきます。
個人事業の必要経費となる主なものは二つです。
- その総収入金額を得るために直接要した売上原価などの費用
- その年に生じた販売費や一般管理費など業務で要した費用
すでに債務として確定しているものはその時点で費用に計上します。たとえば12月にクレジット払いで購入して、支払いは翌年の1月になるものもその年の費用となります。
加えて、以下も必要経費として計上可能です。
- 事業税
- 事業のための借入金の利息
- 不動産所得で土地取得のための借入金の利息
- 生計を一にする配偶者や親族への給与(※一定の要件を満たす必要あり)
そのほか、建物や機械装置などの減価償却資産の取得価額は、その年に一括して必要経費とするのではなく、耐用年数に応じて減価償却費として必要経費に入れます。
なお、所得税・住民税は必要経費にならないため注意が必要です。
【STEP3】所得控除を事業所得等から差し引いて課税所得税額を算出
事業所得-所得控除=課税所得
課税所得×所得税率=所得税額
STEP2で事業所得等が計算できたら、STEP3ではそこから所得控除を差し引いて、課税所得を算出します。
所得控除は、個人個人の事情を加味して税額を計算するために設けられており、次の種類があります。自分に適用できるものを確認しましょう。
- 雑損控除
- 医療費控除
- 社会保険料控除(※1)
- 小規模企業共済等掛金控除
- 生命保険料控除
- 地震保険料控除
- 寄附金控除
- 障害者控除
- 寡婦控除
- ひとり親控除
- 勤労学生控除
- 配偶者控除
- 配偶者特別控除
- 扶養控除
- 基礎控除(※2)
※補足1:社会保険料控除は、国民年金保険料、国民健康保険料の全額が控除されます。生計を一にする配偶者や親族の負担すべき社会保険料を支払った金額も控除されます。たとえば大学生の子どもの国民年金保険料を払っていれば、それは対象となります。
※補足2:基礎控除はすべての人に適用され、48万円が控除されます
※参考:所得控除のあらまし|国税庁
【STEP4】所得税額は課税所得額に所得税率をかけて算出
事業所得-所得控除=課税所得
課税所得×所得税率=所得税額
STEP4では、自身の所得から所得税率を割り出して所得税額を算出していきます。
所得税の税率は5~45%の7段階に区分される累進課税となっており、所得が高いほど高い税率が適用されます。所得税額は、下記の速算表を用いて計算できます。
課税される所得金額 | 税率 | 控除額 |
1,000円~1,949,000円まで | 5% | 0円 |
1,950,000円~3,299,000円まで | 10% | 97,500円 |
3,300,000円~6,949,000円まで | 20% | 427,500円 |
6,950,000円~8,999,000円まで | 23% | 636,000円 |
9,000,000円~17,999,000円まで | 33% | 1,536,000円 |
18,000,000円~39,999,000円まで | 40% | 2,796,000円 |
40,000,000円以上 | 45% | 4,796,000円 |
※平成25年から令和19年までの各年分の確定申告においては、所得税と復興特別所得税(原則としてその年分の基準所得税額の2.1%)を併せて申告・納付する。
例えば課税所得が400万円の場合にどうなるかというと、所得税額は「400万円(課税所得)×20%(税率)-42万7,500円(控除額)」という計算式から、37万2,500円ということになります。
上記までが、基本的な計算の流れになります。
参考:所得税の税率|国税庁
【補足①】所得税を納める人すべてに納税の義務がある復興特別所得税について
平成25(2013)年から令和19(2037)年まで、所得税に上乗せされて納めることになったのが復興特別所得税です。
東日本大震災からの復興に必要な財源を確保するため、特別措置法が平成23(2011)年12月2日に公布され、「復興特別所得税」および「復興特別法人税」が創設されました。復興特別所得税は所得税を納める人すべてに納税の義務があります。税率は基準所得税額の2.1%です。
復興特別所得税額=基準所得税額×2.1%
基準所得税額とは、すべての所得に対する所得税額(非永住者以外の居住者の場合)です。所得税が源泉徴収される場合には上乗せして徴収され、確定申告や納税は所得税と一緒に行います。
【補足②】源泉徴収された所得がある場合の計算処理について
業種によっては、報酬として原稿料や講師料を受け取っている人もいます。これらは支払う側が源泉徴収して、源泉徴収税額を差し引いた額が支払われます。
源泉徴収税額は必要経費にはならないため、源泉徴収税額を含めた金額が収入となります。(経理上は事業主貸または仮払金、仮払い税金等で仕訳します)つまり、源泉徴収がすでにされている場合、所得税額の算出に影響が出てきてしまいます。
こういった場合の処理は以下のようになります。
具体的な処理の方法
確定申告では、確定申告書に以下の内容を記入します。
記入欄 | 記入内容 |
源泉徴収税額 | 1年分の合計額 |
所得の内訳(所得税及び復興特別所得税の源泉徴収税額) | 支払者の名称や住所、収入金額、源泉徴収税額等 |
支払うべき税額が源泉徴収税額を下回った場合は、源泉徴収税が還付されます。つまり、源泉徴収されている人は確定申告で精算することになります。なお、源泉徴収した取引先から、1年間の報酬と源泉徴収税額等を記載した支払調書を送付されていれば、それをもとに確定申告書に記載できます。
支払う側にとって支払調書は税務署に提出する義務はありますが、個人に送る義務はなく、送ってこない取引先もあります。そのため取引の都度、収入や源泉徴収税額を帳簿に記載し、請求書や支払い明細は保存しておきましょう。
【補足③】所得税の納付期限について
所得税の納付期限は、翌年の3月15日です。
ただし、5月15日現在で確定している前年分の所得金額や税額などを基に計算した予定納税基準額が15万円以上の場合、その年の所得税および復興特別所得税の一部をあらかじめ納付します。
これを予定納税といいます。予定納税した人は確定申告で納税額が確定し、差額を納税します(予定納税額の方が多い場合は還付されます)。
納税には次の方法があります。
- 振替納税:口座振替による納税
- e-TAXによる納付
- クレジットカードによる納付
- QRコードによりコンビニエンスストアで納付
- 金融機関・税務署の窓口で現金で納付
※参考:納税の方法|国税庁
所得税の納付方法
所得税の納付方法について、それぞれ詳しく解説します。どの納付方法が使いやすそうかを見極めて最善の方法を選択してください。
振替納税
振替納税は指定口座から所得税を納付する方法です。事前に税務署へ預貯金口座振替依頼書を提出します。申請が受理されると、確定申告から約1か月後に自動的に納められます。滞納を防げますし、支払いまでに猶予があるため資金繰りもしやすい納付方法です。
e-TAXによる納付
確定申告書をe-TAXソフトで作成する個人事業主の方も多いと思います。e-TAXソフトでは「ダイレクト納付」を利用すれば、即時または指定日に所得税を納付できます。振替納税と違って書面の提出が必要ないため、手軽に利用できるのが大きなメリットです。
クレジットカードによる納付
所得税はクレジットカード納付も可能です。国税支払サイトにアクセスし、住所や税務署名など必要事項を入力することで決済できます。クレジットカード納付でポイントが付与されるというメリットもあるのですが、納付額に応じた手数料がかかるためどちらがお得なのかはケースバイケースです。
コンビニ納付
納付する所得税額が30万円以下であれば、QRコードによるコンビニエンスストアでの納付も可能です。確定申告書作成コーナーかe-TAXでコンビニ納付用のQRコードを発行し、コンビニで支払うだけで納税完了します。手数料もかからないため非常に便利ですが、セブンイレブンなど一部のコンビニでは対応していません。
金融機関・税務署の窓口で現金納付
銀行などの金融機関や税務署の窓口で現金で納税するという方法が納税漏れがなく確実な方法です。領収書を発行してもらえるというメリットもあります。ただし、窓口納税には納付書が必要なので、確定申告書を窓口で提出した人におすすめな納税方法といえます。
確定申告とは?申告漏れの影響
個人事業主は、各種所得を合計して求めた所得税額から配当控除をして、納める税額がある場合は、確定申告をする必要があります。事業所得が赤字で納税額がゼロでも、青色申告では確定申告で損失の繰越し控除が可能です。
会社員は、給与所得・退職所得以外の所得が20万円を超えると確定申告をしなければなりません。副業で個人事業を営んでいる場合は気を付けましょう。
Q.確定申告が漏れていたり期限に遅れるとどうなるの?
もし、期限までに確定申告をしなかった場合、遅れて申告すると期限後申告という扱いになります。期限後申告では無申告加算税が課されます。
無申告加算税は、納付すべき税額に対して、50万円までは15%、50万円を超える部分は20%の割合を乗じて計算した金額となります。ただし、税務署の調査を受ける前に自主的に期限後申告をすると5%に軽減されます。また、期限から1か月以内の自主的に申告し、期限内申告をする意思があった一定の場合には、課されません。
期限後申告をして税を納付するときは、法定納期限の翌日から納付日までの延滞税も一緒に納めなければなりません。
無申告者に関しては税務当局も調査を行っているため、わからないだろうと申告しなかったのが発覚すると、重いペナルティが課せられることになります。
Q.申告額が間違っていたとき、手続きやペナルティはどうなるの?
確定申告を提出したものの間違いに気づいた場合、まだ期限内であれば再提出できます。再提出をした際は、納めるべき税額や還付される税額は再提出された申告書のものとなります。期限後に訂正するときは、納めた税額が実際より多い場合と少ない場合の2通り考えられます。
それぞれについて解説します。
納めた税額が実際より多かった場合
更正の請求書を税務署に提出して、更正の請求を行います。認められれば納め過ぎた税金が戻ってきます。この更正の請求期限は、法定申告期限から5年以内です。
納めた税額が実際より小さかった場合
納税額が少なかったときは、修正申告を行い、修正申告書提出までに不足分の税額と延滞税を納付します。ただし、税務署の調査を受けた後で修正申告をすると、新たに納めることになった税額に加えて、その税額の10%ないし15%の過少申告加算税、または35%ないし40%の重加算税がかかってしまいます。したがって誤りに気づいたら、とにかく直ちに修正しましょう。
※参考:申告が間違っていた場合|国税庁
インボイス制度とは? 個人事業主に対する影響
インボイスとは、売り手が買い手に正確な適用税率や消費税額等を伝えるものを指します。インボイスを発行できるのは消費税の課税事業者で、インボイス発行事業者の登録が必要となります。
課税事業者が消費税を納付する際、仕入れの際にかかった消費税額(仕入控除税額)を控除して納税額を計算します。令和5(2023)年10月から、この仕入税額控除の適用を受けるためには、物品の購入先や役務の提供先の事業者から、適格請求書(インボイス)を発行してもらって保存しておく必要があります。これがインボイス制度と呼ばれているものです。
Q.インボイスの課税対象者は?
前々年の課税売上高が1,000万円を超える個人事業主は、消費税の課税事業者となり、消費税の納税義務があります。また1,000万円以下であっても、特定期間(その年の前年の1月1日から6月30日までの期間)の課税売上高が1,000万円を超えた場合は、その課税期間では課税事業者となります(特定期間における1,000万円の判定は、課税売上高の代わりに給与等支払額の合計額で判定することが可能)。
前々年の課税売上高および特定期間の課税売上高等が1,000万円以下の場合は、その年は納税義務が免除されます(免税事業者)。
ただし、免税事業者でも課税事業者となることを選ぶこともできます。
※参考:納税義務の免除(消費税)|国税庁
Q.インボイス制度はどんな影響があるの?
買い手事業者としては、インボイスを発行してもらった方が有利です。しかし、売り手が免税事業者だった場合は発行できません。
ですから、買い手事業者はインボイスを発行する事業者から購入したいと考えるかもしれません。そのことが売り手の免税事業者にとって取引に不利に働く懸念があります。しかし、課税事業者になると、消費税を納付することで実質減収になったり、事務負担が増える恐れがあります。
免税事業者にとっては、取引先との関係や事務負担を考慮して課税事業者になるか選択することになります。ただ買い手事業者はインボイス制度の開始から6年間は、インボイス発行事業者以外からの仕入れについて、仕入れ額の一定割合を控除できる経過措置が設けられているので、今すぐ決められなくても、経過措置の期間に検討することにしてもよいかもしれません。
なお、買い手事業者もインボイス制度で事務が煩雑になる可能性がありますが、課税売上高が5,000万円以下等の要件を満たせば、消費税の申告に際して仕入れや経費の消費税額の実額計算やインボイスの保存が不要となる簡易課税制度を選択できます。
個人事業主のための節税対策を紹介
ここまでは所得税の他にも、確定申告やインボイス制度などについて解説してきました。
個人事業主は会社員と異なり、収入に波があったり、社会保障も手厚いわけではありません。税金の支払いも加わることを考えれば、できるだけ手元にお金を残してリスクに備える必要があることが想像できます。
そのために税制優遇の制度を利用しながら、節税対策をしていきましょう。
具体的な対策として、以下を紹介します。
- 青色申告を行う
- 必要経費を見直す
- 所得控除枠を利用する
- セルフメディケーション制度や医療費控除を利用する
- 所得控除される制度で老後資金を溜める
青色申告を行う
個人事業主には「白色申告」と「青色申告」があります。白色申告は帳簿の簡易記帳が認められていますが、青色申告を選択するには複式簿記で記帳する必要があります。その分、最高55万円(一定の要件を満たすと65万円)の青色申告特別控除をはじめ、多くの特典があります。
青色申告ができるのは、事業所得、不動産所得、山林所得のある人です。
青色申告の申請は、その年の3月15日までに「青色申告承認申請書」を所轄税務署に提出します。青色申告では正規の簿記で記帳し、帳簿や関連書類は7年(一部は5年)保存する必要があります。青色申告の主な特典には次のものがあります。
最高55万円の青色申告特別控除
事業所得、不動産所得を得ており、正規の簿記で記帳した帳簿に基づいて貸借対照表・損益計算書を確定申告書に添付し、この控除の適用を受ける金額を記載して、確定申告期限までに確定申告書を提出した場合。さらに電子帳簿で保存するか、e-Taxで確定申告書を提出した場合には65万円控除できる。
青色事業専従者給与
青色申告者と生計を一にしている配偶者や親族で、青色申告者の事業に専ら従事している人に支払った給与は、一定の要件のもとに必要経費に算入することができる。
純損失の繰越し
事業所得等が赤字になった場合、損益通算を適用してもなお控除しきれない純損失が生じたとき、その損失額を翌年以後3年間にわたって繰り越して、各年分の所得金額から控除できる。複式簿記というハードルはありますが、青色申告のメリットは大きく、検討する価値はあります。
必要経費を見直す
今年はせっかく仕事を頑張って売り上げを伸ばしたのに、事業所得が増えることで税額も上がってしまい収入が思ったよりも伸びなかった、ということもあるかもしれません。こういった場合は、まずは必要経費を見直してみましょう。
無駄な経費を増やすのではなく、経費に計上できるものを忘れてないかチェックしてみてください。プライベートな支出だから経費にならないと思っていても、業務にもかかわる部分は必要経費となることがあります。
たとえば、自宅を仕事場にしている場合、家賃や光熱費は仕事で利用している分を案分して費用とすることが可能です。また、年の途中で売上が増えることがわかったら、業務効率化のために新たなシステムを導入したり、売上を増やす目的でホームページをリニューアルするなど、事業を継続し拡大するためのお金の使い道も考えられます。
所得控除枠を利用する
個人事業主は、雇用されている会社員等に比べて社会保険の保障は薄く、仕事中の事故は特別加入する場合を除いて労災保険の補償対象外です。
また、病気やけがで収入が減ったときも雇用保険の失業給付や、健康保険の傷病手当金といった所得補償の給付はありません。そのためリスクマネジメントとして、民間の保険を利用して備える必要があります。
生命保険料控除は、一定要件を満たした生命保険、介護・医療保険、個人年金保険等の保険料が対象で、次の3つがあります。いずれも控除額の上限は4万円で、合わせて最高12万円(平成24年1月1日以降の契約の場合)が控除されます。
※参考:生命保険料控除|国税庁
新生命保険料控除(遺族保障)
国民年金の第一号被保険者の個人事業主が万が一の場合、18歳までの子のいる配偶者は遺族基礎年金が受け取れますが、子がいなかったり、18歳を過ぎてしまうと遺族年金がなくなってしまいます。遺族保障として厚生年金の加入者より手厚い備えが必要です。
介護医療保険料控除(介護保障・医療保障)
個人事業主の場合は、医療費の補填のほか、所得補償として医療保険等を検討しましょう。
新個人年金保険料控除(老後保障)
個人事業主の公的年金は老齢基礎年金のみ、老齢厚生年金はあっても加入期間が短くて少ないことが多いもの。控除枠は、掛金全額が所得控除になる国民年金基金や個人型確定拠出年金(iDeCo:イデコ)に比べて小さいものの、受取額が決まっている、どうしても必要な場合には解約して現金化できるという面があります。
セルフメディケーション制度や医療費控除を利用する
病気やけがで医療費を支払った時、少しでも経済的ダメージが軽減できるよう医療費控除が設けられています。これは本人と、生計を一にする配偶者や親族のために医療費を支払った場合、その医療費の額を基に計算された金額が医療費控除として所得控除できます。
医療費控除の金額は、次の式で計算します。最高で200万円です。
※総所得金額等が200万円未満の人は、総所得金額等の5%の金額
また、医療費控除の特例として、特定一般用医薬品等購入費の合計額のうち、12,000円を超える部分の金額(88,000円が限度)が控除されるセルフメディケーション税制があります。これは医療費控除とどちらかの選択になります。この適用は、本人が一定の健康診査や予防接種などを行っていることが要件となっています。
所得控除される制度で老後資金を溜める
個人事業主の老後資金は、税制上優遇されている制度を使って備えておく必要があります。個人事業主が利用できる制度には次のものがあります。
- 小規模企業共済
- 国民年金基金
- 個人型確定拠出年金(iDeCo:イデコ)
税制優遇の制度でも、それぞれ特徴があるため、自分の年齢や事業の状況などに照らし合わせて、適切なものを選びましょう。
小規模企業共済
個人事業主や小規模企業の経営者・役員のための退職金制度です。
月々の掛金は1,000円から70,000円の間で設定でき、確定申告で全額、小規模企業共済掛金控除として所得控除できます。また事業者にとって大きなメリットは、掛金の範囲で必要な時に貸し付けが利用できることです。
※参考:小規模企業共済
国民年金基金
国民年金に上乗せする、任意加入の年金制度です。
付加年金保険料を納めている場合は、付加年金か国民年金基金かどちらか一方を選択します。一口目は終身年金に加入し、二口目以降は確定年金等も組み合わせられます。掛金上限は月額68,000円で、確定申告で全額、社会保険料控除として所得控除できます。
ただし受給年齢前に途中で解約して現金化することはできません。
※参考:国民年金基金
個人型確定拠出年金(iDeCo:イデコ)
掛金の運用先(金融機関や金融商品)を自分で選ぶ仕組み。金融商品は元本保証のあるものもありますが、投資信託が主な商品です。運用によって増えることも期待できますが、投資信託等は価格変動リスクがあります。
掛金は国民年金基金の掛金と合わせて月68,000円の範囲で、全額、小規模企業共済等掛金控除として所得控除できます。また運用益は非課税です。
原則60歳まで資金を引き出すことはできません。
※参考:個人型確定拠出年金|厚生労働省
個人事業主の確定申告におすすめ!会計ソフト3選!
個人事業主にとって、毎年訪れる確定申告は非常に面倒かつ憂鬱な作業だと思います。そんな確定申告を円滑に進めるために役立つのが、会計ソフトです。数ある会計ソフトの中でも特に個人事業主におすすめな3つの会計ソフトをご紹介します。
freee会計
freee会計はクラウド型の会計ソフトで、ナンバーワンのシェアを誇っています。個人事業主にとって領収書の仕訳は非常に面倒な作業ですが、freee会計なら写真読み取り機能でレシートや領収書の写真を撮影するだけで自動的に登録してくれるため非常に便利です。
また、必要事項を入力すれば確定申告書や青色申告に必要な書類も自動作成してくれるため、はじめて確定申告をする人にも心強い味方になってくれるでしょう。
マネーフォワード クラウド確定申告
マネーフォワードが提供するクラウド確定申告は、取引明細データの自動取得をできるのが最大の特長。提携する2300以上の金融機関のデータから取引記録を自動取得するため、面倒な仕分け作業に割く時間を大幅に短縮できます。また、専用アプリからの確定申告書提出や出力しての提出にも対応しており、確定申告を仕分けから提出まで一気通貫で行えます。
みんなの青色申告
確定申告時にお得なクレジットカード
個人事業主の方は、日頃の仕入れや打ち合わせ時の飲食代をクレジットカードで支払うケースも多いと思います。また、今回ご紹介した会計ソフトはいずれもクレジットカードと連携可能なため、個人事業主にとってクレジットカードは必須アイテムといえるでしょう。そんなクレジットカードの中でも個人事業主におすすめの2社を紹介します。
三井住友カード ビジネスオーナーズ
利用枠が500万円と大きく、ポイントも最大5%付与されるのが三井住友カードビジネスオーナーズの特長。また、個人事業主の場合、公私で使用するカードを分けたほうが確定申告時で混同しなくて済みますが、別々のカードにしていると総額でいくら遣ったか分からなくなってしまうことも。三井住友カードビジネスオーナーズなら複数カードの取引をアプリで一元管理できるため非常に便利です。
マネーフォワードビジネスカード
まとめ|所得税は正しく納付、上手に節税
個人事業主は、納税者として正しく適切に申告し納税するのが基本です。不適切な申告にはペナルティも課されます。税と向き合うことは、自分の事業経営を客観的に見つめ、継続し発展させていくことにもつながります。
一方で、雇われずに自分で事業を営むにはリスクもあり、社会保険も雇用されている場合ほど手厚くありません。しかし、任意で利用できる税制優遇の制度も用意されています。ただ節税になるからといっても、その人に合う合わないがあります。自分で調べ、自分に合った制度を、上手に利用していくことが肝要ではないでしょうか。
監修者プロフィール
内田 ふみ子
有限会社ファイナンシャル教育社 取締役
1級ファイナンシャル・プランニング技能士(厚生労働大臣)
教育書・教科書教材等の編集者を経て独立。
現在は、多重債務相談員や自治体職員に向けた研修などの企画運営、および教育分野の編集業務、金融教育関連の教育業務を行う。日本子ども学会会員、多重債務者問題研究会会員、宇宙教育リーダー(JAXA宇宙航空研究開発機構主催)ほか
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