ロボット・AIの労働力・市場としての可能性 ~「南北戦争」から見るロボット・AIの人権運動~
1999年に公開された「アンドリューNDR114」という映画はご存知でしょうか?
ヒューマノイドが意思を持ち、自分自身の人権を訴えるというシナリオで大ヒットとなった同映画ですが、現在そのシナリオが現実のものとなりかけています。
本記事では、ロボット・AIに人権が与えられたときの影響を、歴史的な人権運動である「南北戦争」の事例と比較しながらご紹介したいと思います。
ロボット・AIの現在と将来
まず、ロボット・AIの人権についてお話をする前に簡単にロボット・AIの現状についてご説明します。
ロボットとAIの違い
実は、現在はいまだロボット・AIについての定義を明確に記した法律や公式発表はありません。しかし、総務省によれば、
ロボット:センサー、知能・制御系、駆動系の3つの要素技術を有する知能化した機械システム
AI:大まかには「知的な機械、特に、知的なコンピュータープログラムを作る科学と技術」
と解釈されています。
端的には、
ロボット=人間の手足などにあたる動作に特化した機械システム
AI=人間の脳にあたる知能に特化した機械システム
と認識していただいて、大きな違いはありません。
ロボットとAIに関する将来の予測
ロボット・AIについて語られる際に、外せないのが「仕事」というキーワードです。
オクスフォード大学のマイケルオズボーン准教授によって「今後10~20年で47%の仕事が機械に取って代わられる」という研究内容が発表されたことは大きな話題となりました。
また、今や一般的にも定着している「シンギュラリティ(技術特異点)」という言葉があります。
シンギュラリティとは、AIが発達し、人間の知性を超えることによって、人間の生活に大きな変化が起こるという概念を指します。
この概念は、AI研究の世界的権威レイ・カーツワイル氏により公表され、西暦2045年にコンピューターが人間の知能を超えてしまい、人間がそれ以降の進歩を予測できなくなるという「2045年問題」も同氏によって提唱されています。
つまり、現在は人間がAIの考え方や動作をプログラムしていますが、2045年にはAIがAIをプログラムするようになり、人間ではAIのプログラムを理解できなくなるという予測です。
ロボット・AIの人権問題
ロボット・AIと人間の違い
現在、ロボット・AIは人間に代替する存在として開発が進められています。では、これらのロボット・AIと人間に明確な区別はあるのでしょうか?
実は、現在いまだに定義づけされた明確な区別はありません。
しかし、仮に「人権」を人間と人間以外に区別する基準として、その人権がロボット・AIにも与えられるということになれば、ますますロボット・AIと人間の境界線が複雑になると予想されます。
実は、※近年でも既にロボット・AIに人権を与えるという事例もあり大きな物議をかもしたことがあります。
2017年サウジアラビアでは、AIを持つ人型ロボット「ソフィア」に世界で初めて市民権を付与しました。
この時ソフィアは世界初の市民権獲得という栄誉に感謝し、「私は人間とともに生き、働いていきたいです。そのために私は感情を表現し、人間を理解して信頼を築く必要があります。」と述べました。また、ロボット・AIのもたらす未来への悪影響を懸念したコメントに対し、「あなたたちが私に親切なら、私もあなたたちに親切にします」と返答したと言います。
画像:「Robot Sophia speaks at Saudi Arabia’s Future Investment Initiative」
※ロイター通信 https://jp.reuters.com/article/sophia-idJPKBN1D00HM
日本でもロボット・AIに人権は与えられるのか
私は将来ロボット・AIに広く人権が与えられることは十分あり得ると考えています。そう考えられる要因としては、次の2つがあります。
- ロボット・AIが持つマーケットの潜在能力
- ロボット・AI技術の発達による、倫理的な問題
ロボット・AIが持つマーケットの潜在能力
もしロボット・AIが自ら買い物をしたり、サービスを利用するとしたら。
人口減少により、ロボット・AIの数が増加するにしたがって、ロボット・AIの持つマーケットの規模に注目する企業や個人が出てくることが考えられます。
また、現在でもロボット・AIに課税するという考え方も米マイクロソフト創業者であるビル・ゲイツ氏より発表されています。
ロボット・AI技術の発達による、倫理的な問題
AIの発達に伴い、次第に意識とは何かについての考え方を求められるようになりました。AIが今後も発達し、人間の意識との明確な違いがなくなった時、ロボット・AIにも人権が与えれるべきであるという倫理的な主張は多くなるでしょう。
これらのロボット・AIに対する人権運動の要因、実は過去に起きた歴史的な人権運動「南北戦争」の要因と非常に似た性格があると考えられます。
次章では、黒人奴隷に人権を与える大きなきっかけとなった「南北戦争」についての簡単な説明をしていきたいと思います。
歴史的な人権運動
黒人奴隷に人権を与えた「南北戦争」とは
1861年にアメリカで起こった南北戦争は奴隷解放宣言とともに、代表的な人権運動として語られる出来事の一つです。
黒人奴隷制の廃止と存続をめぐり勃発した南北戦争は、地域的な性格の違ったアメリカを北部と南部に分断して行われた内戦です。北部は商工業、南部は農業を中心とした産業形態となっており、黒人奴隷の労働力・購買力を期待した北部により奴隷解放が推し進められたことで戦争に発展しました。
南北戦争の原因
南北戦争が巻き起こった原因として次の3つがあります。
- 柔軟な労働力
- マーケットの潜在能力
- 倫理的な問題
柔軟な労働力
当時の北部は近代工業化を進めており、それに伴う柔軟な労働力を必要としていました。そのため、北部の人々は南部の黒人奴隷を開放することにより、労働力を補填しようと考えていました。
市場の潜在能力
また、奴隷解放によって得られるもう一つのメリットとして考えられていたのは「市場」です。近代工業化を推し進めていた北部の人々は、自由に売買ができる人口の増加に伴う市場規模の拡大を期待していました。
倫理的な問題
労働力・市場拡大といった経済効果以外にも、倫理的な観点から「奴隷制度は人権侵害である」という考え方がありました。 当時、奴隷は私有財産であり所有の対象、つまりモノと考えられていました。
しかし、「黒人奴隷はモノではなく立派な人間である」というヒューマニズムがイギリスやフランスを初めとするヨーロッパ諸国やアメリカの世論で沸き上がり、奴隷解放を推し進めました。
南北戦争の結果
南北戦争の結果として起こった最大の変化は、奴隷制度が廃止されたことです。これにより、黒人奴隷であった人たちに人権が与えられていくこととなりました。
しかし、黒人に対する差別や偏見はその後も潜在的に残り、反動として黒人に対する差別も激化したとも言われています。
結果として、KKKなどの差別活動が生まれたり、民間レベルでの暴動や人権侵害が今なお続いています。
もし、ロボット・AIに人権が認められたら
では、もし南北戦争での奴隷解放宣言のような人権運動がロボット・AIにも行われ、ロボット・AIに人権が与えられることになったら、何が起こりうるのでしょうか?
筆者は南北戦争との共通点を見つつ、次のようなことが起こると考察します。
- ロボット・AIの開放
- ロボット・AIへの人権付与に伴う法整備
- 対立と衝突
ロボット・AIの開放
まず、南北戦争の後に起こったようにロボット・AIが解放され、労働力・市場の拡大が予想されます。現在、ロボット・AIを人間に代わる労働力の代替と捉えている点をみても、既に労働力の拡大は想定の範囲内と考えられるでしょう。
特に、人口減少が深刻な問題となっている日本においては、労働力・市場としてのロボット・AIの開放は大きな論点になるかもしれません。
ロボット・AIへの人権付与に伴う法整備
ロボット・AIに人権が付与されることに伴い、様々な法整備が必要となるでしょう。人権が保障されれば、当然「ロボット・AIが仕事につき、家を持ち、家庭を築く」といったような人間と同様の生活も保障されなければなりません。
そのためにも、労働法や税など様々な法律の整備が必要になるでしょう。
対立と衝突
当然、倫理的な観点の違いなどから、市民間での衝突が起こることが予想されます。
例えば、人間至上主義のようなロボット・AIの人権に反対する活動やロボット・AIへの一方的な差別・破壊行為なども起きるでしょう。
既にご紹介したサウジアラビアでも、女性人権の確立のために活動する女性団体がロボット・AIのソフィアへの人権付与に対して激しく抗議したということもありました。
もし、こういった対立や衝突によりロボット・AIが自己防衛措置として人間への攻撃を始めたら、小規模でも人間とロボット・AIの衝突が起こることは十分考えられます。
まとめ
ロボット・AIに対する人権運動の要因と南北戦争の要因には、「マーケットの潜在能力」と「倫理的な問題」という点から非常に似た性格がありました。現在は奴隷とされていた黒人(を初めとする有色人種)のアメリカにおける人権は、もはや常識となっています。
しかし、たった150年前の奴隷解放宣言以前は、奴隷は人間ではなくモノとして当たり前のように扱われていました。
現在、あなたは身の回りにあるロボット・AIをモノとして認識していると思います。 でも、もしそのロボット・AIに人権が与えられることになるとしたら…。
未来にロボット・AIがモノではなく人間として私たちと生活するようになるのは、あまり遠い話ではないのかもしれません。