スキル・知識

IT人材が『仕事の壁』を乗り越える必要条件とは? ~その答えはマインドセットにあった~

更新日 2024/11/19

IoT/AI/VR・AR/FinTechを代表とする“ITの進化”により、ビジネス環境変化のスピードを実感する機会が増々増える現在、その環境を支えている(もしくは加速させていると言ったほうが良いかもしれません)IT企業に数年間働いた方、もしくはフリーランスとしてITの仕事に就いている方で、“『仕事の壁』にぶつかったことが無い”と言える人はどれぐらいいるでしょうか。

では、その壁を乗り越えるための必要条件とは何か?一緒に考えてみませんか?

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仕事の壁とは?

一口に「IT」といっても、その職種はSE(システムエンジニア)、プログラマー、コンサルタント、プロジェクトマネージャー、PMO、セールス等々多岐にわたります。企業に属する社員・契約社員、フリーランスとして活動している方それぞれで、何らかの『仕事の壁』を経験したことはありませんか?

『仕事の壁』の定義

現場で働く方々にとっては、昨今のITの発展は“将来のニーズを生み出してくれるもの”という考え方もできるでしょうし、 “常にタフな仕事を生み出すもの”だと考えることもできます。

さらには、ITの発展はこの先も予測が難しいと言われており、つまり、若い世代でも中堅世代においても“常に学習と成長が必要になる”であろうということは簡単に想像できるのではないでしょうか。

その過程において生じる、“他者からの要求レベル”“自分が保有するレベル”のギャップについて悩む状況を『仕事の壁』としてとらえ、それにどのように立ち向かうかのエッセンスを本号でお伝えできればと思います。

『仕事の壁』の例

たとえば、以下のような『仕事の壁』が存在するのではないでしょうか?

入社1年目

  • 学生時代に身に着けた知識が全く役に立たない
  • 勉強の仕方が“テスト対策ではしのげない”と気づく
  • そもそもIT用語もがわからないため話が通じない

入社3年目

  • 仕事が分かってくるにつれ自分が知らない領域が無限にあることを知り自信を無くす
  • ある程度仕事を任せてもらえることは嬉しいが、仕事量や複雑なコミュニケーションパスに追いつめられる
  • 今まで頑張ればなんとかなっていたが、それだけでは仕事を回せないと気づいて悩む

入社5年目

  • チームリーダーやプロジェクトマネージャーを任されたが、自分の判断ミス/知識不足でお客様や会社の同僚・後輩に迷惑をかけて、自分を責める
  • ITのこともマネジメントのこともうまくデキる同期や同年代の転職者が周りにいることに気づいて焦る
  • ITの発展には追い付け無さそう、このままでよいのか、、、と漠然と考える

『仕事の壁』を感じたことが無い人がいるのか?

実際のところ、どうでしょうか?『仕事の壁』を感じたことが無いという人は、ゼロとは断言できませんが、少なくとも筆者の周りには一人もいません。しかしながら、急速に発展するIT業界においても、様々な『仕事の壁』に対して柔軟に対応し、あたかも簡単に乗り越えているかのように見える人は周りに何人かいると思いませんか?

つまりは、『仕事の壁』に対して自分がどうやって向き合うかで、仕事を苦にせず、楽しくできる可能性が高くなると理解しても良いのではないでしょうか。

求められるIT人材

では、昨今ではどのようなIT人材が求められているのでしょうか? 2つの例を客観的な情報としてとらえて、本章で述べていきたいと思います。

スティーブ・ジョブズのメッセージ「Stay hungry, Stay foolish」

ITの劇的進化の一躍を担った米Apple社の創業者・元CEOである故スティーブ・ジョブズ氏が2005年6月、スタンフォード大学卒業で「伝説のスピーチ」と呼ばれている式辞を述べたことはご存知でしょうか。そして、その締めくくりの言葉が「Stay hungry, Stay foolish」でした。

さて、この意味するところは? 約15分のスピーチの中で、同氏は以下の3点について述べています。 1)点と点をつなぐ 2)愛と喪失 3)死について 筆者なりにそのそれぞれの点を要約すると以下のようになります。

  1. 点と点をつなぐ
    大学を6か月で中退した事実を語りながら、自由の時間を手に入れたことで、興味の無い授業は欠席し、自分の興味を引く授業“カリグラフィー”(西洋書道)の授業には熱心に参加し、それが後の「世界で初めて美しい活字を扱えるパソコン“Mac”になった」。
    「迷いながらも、大学を退学するという決断をしたからこそ、今がある。今の判断や行動が将来の何かに繋がるということを信じてください」と同氏は語っています。
  2. 愛と喪失
    ジョブズ氏がApple社を追放された際の話です。自ら創業した愛するアップル社を“クビになった“という事実は、その時は”絶望”を感じ、数カ月は途方に暮れていたとのことです。しかし、それを機に自分がまだ仕事を愛していることに気づき直し、同時に身軽さを手に入れたことでPixer社を創業し世界初のCGアニメである、「Toy Story」で成功を収めました。
    そして、その技術は、ジョブズが復帰してからのApple社における、中核技術のひとつになっています。 「それ(=Apple社を追放されたこと)は苦い薬でした。しかし、私には必要だったのでしょう。」とも語っています。
  3. 死について
    今日が最後の日だと思えば(つまり死を覚悟すれば)、重要な決断をするときに大きな自信となるとの表現と同時に、「周囲からの期待やプライド、失敗や恥をかくことの恐怖などは、死に直面すると消え去る」という言葉を語っています。スピーチの1年前に癌を宣告された同氏の言葉には意味深さを感じます。

さて、最初の話に戻り、スピーチの締めくくりの言葉「Stay hungry, Stay foolish」を以下のように考察してみました。 この言葉だけを直訳をすると、「貪欲であり続けよう、愚か者であり続けよう」ということになりますが、前述3点の話をくみ取ると、その意味合い・重さが少し違ってくると思います。

ジョブズ氏が言いたかったのは:自分の人生なのだから、好きなことを成し遂げるために、恐れず・迷わず、たとえ苦悩があっても、自分の信じる道を歩めばいいじゃないか

ということではないでしょうか。 参考:Web検索で“スティーブ・ジョブズ 伝説のスピーチ”と検索すると日本語字幕付き動画を見つけることができると思いますので、是非視聴してみてください。 例えば:こちら

最新情報 「2018年:IT人材白書」で述べられているメッセージ

さて、日本国内での情報も紹介させてください。IPA(独立行政法人 情報処理推進機構)はご存知ですか?聞いたことが無い方も「情報処理技術者試験」(例:ITパスポート、システムアーキテクト試験)を実施している機関と聞くとピンとくるかもしれません。

同機関が発信している、「IT人材白書2018」の一節「IT人材個人に向けたメッセージ」で、以下が述べられています。

活躍の場に立とう! 確実にデジタル変革が始まっている。大きな変化はチャンスに繋がる。 (中略) 現状に安住することなく、企業の枠を超えた人脈を拡げ、さらに技術を高め、スキルを磨き、装備し、IT人材の知見や経験で次の時代をリードする価値を創造するプロになり、自らのチャンスを掴んで主役になれ!!

さらに同法人の昨年度発信「IT人材白書2017」において、以下が述べられています。

デジタル時代は、個々のIT人材にとって活躍の場を広げられるまたとないチャンスである。所属する企業で新たな試みをすることもできるし、起業のチャンスも開けている。  (中略) 目の前の業務だけにとらわれることなく、広く視野を持って進むべき道を探り、学ぼう。勉強会やコミュニティなど、学びの場は周囲にある。自己研鑽によって能力を高めれば高めただけ、社会をリードする人材になっていく。

簡単に図式化すると

前述2-2の例の共通項を図式化して要約すると

一見当たり前のように思えます。しかし、今まさに自分が、『仕事の壁』にぶつかっている時にも、 “当たり前”として考え、行動ができているでしょうか?場面によって、違った作用が働いているような気がしませんか?

つまりは、何から始めればよいのか

何から始めればよいのか?何を学習すればよいのか?そんな素朴な疑問を持つことができれば、次ステップへ進めるチャンスです。 最近、“マインドセット“という言葉をよく耳にするかと思います。

マインドセットとは、「経験、教育、先入観などから形成される思考様式、心理状態」(出典:グロービス MBA経営辞書)や、「物事を判断したり行動したりする際に基準とする考え方」(出典:コトバンク)と言われています。

以下の図を見てどのように思いますか?家に例えるならば、土台がマインドセットであり、家が知識といったイメージです。 やはり、土台をしっかり作っておくことが必要ですよね。

地震がおきた時(=『仕事の壁』にぶつかった時)、家(=知識)は揺れたり多少壊れたりすることはあっても、土台(=マインド)がしっかりしていれば、またもとに戻すことができますよね。

また家を増改築しようと場合にも、やはり土台がしっかりしておくことが必要なことも想像いただけると思います。 そうです、やはり土台(=マインドセット)をしっかり創り上げるところから始めるべきではないでしょうか。

マインドセットで『仕事の壁』を乗り越えよう

さて、前章でマインドセットのイメージを持っていただけましたでしょうか。本章ではマインドセットの本質に迫っていきたいと思います。 マインドセットが個人毎に違うということは、容易に想像できると思います。

グローバル化やIT革新などにより社会環境の変化が急速に加速している現代では、私たちの周りに多様なマインドセットが存在していることは間違いないと言えます。そしてマインドセットが、継続的な成長意欲の鍵を握っていると言って良いでしょう。

では、「グロースマインドセット」「フィックストマインドセット」という考え方をご存知でしょうか?

「グロースマインドセット」とは

「グロースマインドセット」は、スタンフォード大学心理学教授のキャロル・S・ドゥエック氏により研究された枠組み・モノの捉え方です。ドゥエック氏の研究によると、マインドセットは大きく分類すると、以下の2つに定義されており、「グロースマインド」に対比するマインドセットとして、「フィックストマインドセット」があります。 

「グロースマインドセット」を持つ人、「フィックストマインドセット」を持つ人それぞれの行動傾向は以下のように表されています。

グロースマインドセットとフィックストマインドセットの違い

マインドセットが変われば

言わずもがな、グロースマインドセットを持ち合わせた人のほうが、柔軟に物事に対応でき、継続的成長が見込めると想像できます。 この考え方は、ビジネスに限った話ではなく、人生そのものの“楽しさ“に直結するのではないでしょうか。

もし、”障害に立ち向かうこと“自体が自然な自分の行動傾向であれば... グロースマインドセットをもち合わせることにより、楽しい人生を送ることができるのでは。 むしろ、今後予測できないレベルの社会環境の変化(働き方・雇用形態・組織形態、会社そのものの在り方などの変化)には、グロースマインドセットは必須になるのではないかと筆者は感じています。

また参考情報としですが、最新の脳科学の研究成果として、ハーバード大学ビジネススクールの名誉教授、ジェラルド・ザルトマン博士によると、人間の生命・思考活動の95%は無意識下で起こっていると提唱されています。

つまりは、無意識の領域を変えることができれば、行動の成果や心の豊かさを向上できる可能性が飛躍的に上がると言っても過言ではないかもしれません。

マインドセットは変えることができるのか

マインドセットを変えることは容易ではないかも知れませんが、変えることができると言われています。また、前述した「グロースマインド」を持ち合わせた人も、何らかの影響で「フィックストマインド」に陥ってしまう場合もあり得ます。

フィックストマインドに陥るケースとしては、たとえば、仕事で失敗をしたり、良かれと思って努力して実施たことが上司から“よけいなことはするな”と言われたり等といったことを起因として、努力するのをやめてしまう、楽しくないのは環境のせいだと信じ込み、新しい課題に向き合わないチャレンジしようという気分になれないという状況から抜けだせない状態です。

そういったことからもマインドセットは変わるもの・変えられるものと理解してよいのではないでしょうか。 ではどのようにしてグロースマインドセットを身に着ければよいのでしょうか。以下でその一例を掲載させていただきます。

もし読者の皆さんがいま、『仕事の壁』を経験されているのであれば、あるいは、経験したことがあるということであれば、是非ご参照ください。

グロースマインドセットを身に着ける段取り

自分を知る

自分が持つ思考の特性を知ることから始めてみてはいかがでしょうか。まずは自分を知り、そしてそれを受け入れることが“変わる”ことの第一歩だと思います。(参考図書:「エニアグラム 自分のことがわかる本」ティム・マクリーン&高岡よしこ 著)

また、別の手段として旧来より知られているマズローの欲求5段階説に照らし合わせて、自分の成長欲求がどのレベルにあるのかを知る方法も有効かもしれません。(参考図書:「マズローの欲求階層説」 渡辺博文 著)

グロースマインドセットの存在を認める

図3-1-1に記載した項目ごとに、自分の心や思考がどちらに傾いているか、セルフチェックしてみてはいかがでしょうか。

いますぐシンプルに自分に問いかけてみるのも良いでしょうし、より具体的にイメージできるのは、実際のビジネスや私生活で、頼み事をされたとき・何らかの失敗をしたときなど、“他者からの要求レベル”と“自分が保有するレベル”のギャップについて悩む状況、つまり『仕事の壁』にぶつかった時に、そのときの素直な気持ちを同様にセルフチェックするという方法もあると思います。(参考図書:マインドセット:「やればできる!」の研究 キャロル・S・ドゥエック 著)

実践してみる

マインドセットの存在を認めることができれば、あとは「グロースマインドセット」を持てるように、“意識的”に行動してみることが重要になります。初めて実践する場合は、何らかの障害にぶつかることもあるでしょう。

ただ、その時思い出してみてください。そもそも、グロースマインドセットを持ち合わせる人は、”障害にも常に立ち向かう“という行動思考であるということを。そうやって意識して繰り返し行動することで、無意識の行動がグロースマインドセットになっていくのではないかと思います。

ここまで述べた、「自分を知る」「グロースマインドセットの存在を認める」「実践してみる」を繰り返して実施することが『仕事の壁』を乗り越える必須条件だと筆者は考えます。

ソフトウェアの巨人におけるマインドセットの具体例

ソフトウェアの巨人マイクロソフト(Microsoft)社においても、マインドセットの重要性が認識されており、同社CEO Satya Nadella氏が筆頭となり、“グロースマインドセット”の考え方が企業文化として取り入れられています。

あまり知られていないかもしれませんが、同社は、グロースマインドセットの権威であるキャロル ドゥエック (Carol Deck) 博士のコンサルティングも受けたとのことです。出典:Microsoft Japan Blog 画像:企業文化について学んだ 10 のこと

同じIT業界にいる人材として、興味深いと思いませんか?

今からできるマインドセットの鍛え方 オススメ3選

さて、いろいろ述べさせていただきましたが、具体的に今からできるマインドセットの鍛え方 オススメ3選を以下に紹介させていただきます。

Webサイトで検索

“IT業界で働いているならでは“の得意技を発揮して、まさに進化したIT技術のひとつであるWebサイト検索をしてみてはどうでしょうか。”グロースマインドセット“などの文字列で検索すれば、様々な記事や動画を見つけることができます。

英語の読み書きができる方は英語で”Growth mindset”として検索したほうが、多くの記事・動画を見つけることができます。 スピード重視で、まず、マインドセットの概要を把握するにはオススメの方法です。

本を読む

ベタな手法かもしれませんが、時間をつくって本を読む(できるだけ紙媒体で)というのは、やはり王道のひとつではないでしょうか。(前述でいくつかの参考図書を紹介させていただきましたのでそちらも参考に) Webサイトと違ってよいところは、普段慣れ浸しんでいるITデバイスから少しの時間でも離れて、自分のモードを意識的に変えられるという点だと考え、こちらも違う視点でのオススメです。

何かをやめる

上述も、“何かを始める”オススメ方法です。何かを始めるためにはその時間を作るために、何かをやめるという英断も必要と思います。なんでも良いとかなと。 例えば、テレビを見るのをやめる、漫画を読むのをやめる、ゲームをやめる、飲み会の回数を半分にするなどなど。健康維持のために、睡眠時間を削るという方法はオススメできません。

まとめ

さて、いかがでしたでしょうか。 最後までご覧いただきありがとうございました。 最後に、以下3点をまとめとして述べて、本号をしめくくりたいと思います。

  • 『仕事の壁』を乗り越える必要条件は、「グロースマインドセット」
  • マインドセットは変えられる
  • 継続した成長をしたいと思うか、そして何かの行動を起こすか否かは自分次第

 

執筆者:金栗 一憲

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